憲法記念日

 主要6紙の社説を読み比べてみる。
 はっきりと「改憲派」の側に立つのは読売・産経・日経の3紙。これに対して,朝日は改憲論議に疑問符を付け,毎日は条件を課してブレーキをかけようとする。最も「護憲派」寄りに立つのは東京新聞だ。それぞれ要点を整理しておこう。

【読売新聞】

  • この10年で,憲法論議をめぐる状況は大きく変わり,改憲がタブーではなくなった。
  • 国民の意識も変わり,6割が改憲に賛成している。
  • 94年の試案発表以来,読売新聞が改憲論を提起し続けてきたことは間違っていなかった。
  • 今後はまず国民投票法案の成立を目指す。
  • 「もはや,新憲法への,歴史の流れを逆流させることは出来ない」

産経新聞

  • 問題は改憲の中身。
  • 国会の憲法調査会がまとめた「多数意見」には,新憲法の「背骨」となる国家像が欠落している。
  • 自民・民主両党の国家観が一致しないのなら,まずは9条改正と改正要件の緩和に絞って,「段階的な改憲」を考えるべきだ。

日経新聞

  • 「成熟した民主国家にふさわしい憲法」をめざせ。
  • キーワードは国際化,情報化,地方分権,環境。
  • 具体的には,
  • 「アクセス権」規定には反対

朝日新聞

  • 漠とした世直し気分が「改憲論」を押し上げている。
  • しかし具体的には議論が拡散して収拾がつかない。
  • 9条改憲は中国・韓国の不信をふくらませることになる。
  • 戦後日本が築いた「平和ブランド」の資産価値を見極めよ。

毎日新聞

  • 論点は絞られてきたが,改憲への情熱は萎んでいる。このままでは,改正は実現しないだろう。
  • 国際社会の「敵国」だった日本が,国連安保理常任理事国に立候補できるまで信頼を回復したのは,9条を掲げて平和主義原則に徹した60年の努力の結果。
  • 日本の常任理事国入りに反発する中国に対しては,9条の保持こそ反省の証拠だとして説得すべきだ。
  • 改憲よりも常任理事国入りに力を傾け,日本が「敵国」でないことを世界に承認させた上で,国連憲章に基づいて行動すればいい。
  • 「国柄」を憲法に書き込む必要はない。
  • 義務を増やすのも受け入れられない。

東京新聞

  • 前文・9条の平和主義は,軍事を最優先の価値とはしないことの表明。
  • 交戦権を認めると,勝つことを目指さない交戦はあり得ないので,人権は戦勝という国家目的に奉仕させられることになる。軍事を最優先とする価値観の再登場。
  • 人権保障は,ひとりひとりの個性を生かしながら全体の調和を保つ「粒餡社会」を目指すもの。
  • 義務・責任を強調し,権利の重みを相対化するのは,憲法の役割を無視して,戦前の「練餡社会」に戻そうとするもの。
  • 愛国心の押し付けは,「良心への干渉」。
  • 自民党改憲論は,現憲法の手直しにとどまらない「戦後的価値観の否定」。
  • 自民党が「憲法改正草案」ではなく「新憲法草案」をつくろうとしていることの危険性。
  • 「新憲法制定」とよく似た「創憲」を掲げる民主党は,自らの発想の危うさに気づいているのか。民主党も「戦後の否定」に同調するのか。

 尚,東京新聞社説は5月1日から3日連続で憲法論議を取り上げている。2日の表題は「『活憲』が先だろうに」。少し引用しよう。

 国会の論憲では,憲法の三原則,平和主義・国民主権基本的人権尊重が「定着した」と結論しましたがウソでしょう。定着までしていないから問題が多発しているのです。
 ならば,どうしたらいいか。
 憲法を定着させること,活かすことです。「憲法の理念に現実を一歩ずつ近づけるのが政治だ」と作家の小田実さんが言っていますが,全く同感です。
 念を押します。諸問題の因は憲法理念を実現する政治がされていないからです。政治家は怠慢の責任逃れをしてはいけません。
 憲法と一体の教育基本法の前文にある「個人の尊重を重んじ」の言葉。これをやり玉に「だから身勝手な個人主義がはびこり他人も傷つけるのだ。法改正して愛国心,日本の伝統,道徳重視をうたおう」と主張する面々は,個々人すべての意義,価値を認める個人主義を,利己主義と取り違えています。教基法が「自他の敬愛と協力」を教育方針に掲げているのも見落としている。憲法の理想実現は「根本において教育の力にまつべきもの」と述べる教基法もまた妨げどころか,活かし切らなくてはならない法律のはずです。
 プライバシー権,環境権,知る権利といった「新しい権利」を盛る改憲・加憲・創憲論がありますが,これら権利は現行13,15,21条などの適用で保障されるという判例が活着ずみなのです。憲法の時代遅れはありません。
 新権利をうたう改憲,いいね,と軽やかに考えて,実は9条が主眼の改憲が成る時,どんな危険が後世を覆い,他者・近隣国に痛みとなるか,思いをはせたいものです。

 新聞には珍しい「ですます調」も手伝って穏やかな印象を与えるが,言うべきことはしっかり言っている。典型的な護憲論だが,最早「全国紙」の社説では読めない内容だ。