国籍法違憲判決

 昨日の東京地裁判決は,非嫡出子(婚外子)差別の是正に向けて裁判所が一歩前進してみせたものと評価できる。問題となったのは,国籍法3条1項の国籍取得要件である。

国籍法3条1項
 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のものは,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる。

 今回の事例は,日本人男性とフィリピン人女性との間に生まれた7歳の男児日本国籍の確認を求めたもの。この男児は日本人男性から出生後に「認知」されているが,この両親は「婚姻(入籍)」に至っていない。国籍法3条1項が「認知」だけでなく「婚姻」も,つまり「嫡出子」であることを国籍取得の要件にしていることから,法務局はこの男児の届出を受理しなかった。
 ところがこの両親は「入籍」こそしていないものの,いわゆる「内縁」関係にあり,男児を含めた3人の共同生活が(完全な同居生活ではないが)事実として成立している。裁判所は男性の拠出する生活費で2人が扶養されていること,男児が通う幼稚園の行事にこの男性が父親として参加しているなど家族としての交流が実際に存在することなどを挙げて,「事実婚」として確かな実態があると評価。その上で,子の国籍取得に関して「法律婚」と「事実婚」の間で線を引くのは合理的でないと判断した。

 価値観が多様化している今日の社会で,父母が法律上の婚姻関係を成立させている家族こそが正常な家族で,そうではない内縁関係は,家族として正常な共同生活を営んでいるとの評価には値しないといわなければ,わが国の社会通念や国民感情などに反するなどどいうことは困難である。
 そうすると,日本国民を親の一人とする家族の一員となっている非嫡出子として,わが国との結びつきの点においては異ならない状況にあるにもかかわらず,法律上の婚姻関係が成立している場合には国籍取得が認められるのに,法律上の婚姻関係が成立していない場合には認められないというのは,わが国との結びつきに着眼する国籍法3条1項の趣旨から逸脱し,その区別に何らの合理性も認めることができない。
 国籍法3条1項は,準正子と,父母が内縁関係にある非嫡出子の間で,国籍取得について合理的な理由のない区別を生じさせている点において,憲法14条1項に違反するものというべきである。

 そもそも国籍法では,出生前に「認知」した場合は,出生時点で「法律上の親子関係」が成立しているため,3条の「準正による国籍取得」ではなく,2条の「出生による国籍取得」によって自動的に日本国籍が取得できることになっている。この場合は,両親が入籍しているかどうかは問われない。
 「認知」が出生後の場合につき,両親の「婚姻」を条件としているのが3条だが,今回の判決は,この「婚姻」の定義を「法律婚」に限定せず「事実婚」にまで広げることにより,非嫡出子差別の「一部」を是正しようとしたものである。
 しかし,この判決が,「事実婚」としてであれ,「共同生活」「家族関係」に拘ったことにより,今度は,両親が「事実婚」にまで至っているケースとそうではないケースとの間で線が引かれてしまった。思いっきり簡単に言えば,両親の仲がよければ日本国籍が認められ,両親の仲が悪ければ日本国籍が認められないということになる。ここにまた,「非嫡出子本人に責任のない事情」で国籍取得の可否に違いが生じる「合理的な理由のない区別」があることを見過ごしてはならない。