自民党新憲法要綱
7月7日に発表された自民党の新憲法要綱をみると,3月の「中間報告」に比べて,「穏健」な改憲案となっていることがわかる。党内「復古派」と「協調派」の力関係に,少し変化があったのかもしれない。
【前文】
- 国の生成(自然,文化,和の精神,天皇)と発展
- 国の基本理念(=自由・民主主義・人権・平和)
- 「国を愛し,その独立を堅持する」
- 「人権を享受するとともに,広く公共の福祉に尽力する」
- 教育国家・文化国家
【天皇】
- 象徴天皇制を維持(元首化しない)
- 公的行為(象徴としての行為)に留意
【安全保障】
【人権】
- 「個人の権利には義務が伴い,自由には責任が当然伴う」
- 「個人の権利を相互に調整する概念」としての「公共の福祉」
- 「国家の安全と社会秩序を維持する概念」としての「公共の福祉」
- 文言は「公共の福祉」ではなく「公益及び公共の秩序」にする
- 社会的儀礼,習俗的・文化的行事の範囲内で政教分離原則を緩和
※さらに議論すべき項目
(1)環境権など追加すべき新しい人権
(2)家庭等を保護する責務など追加すべき新しい責務
【統治機構】
【改正】
【その他】
- 私学助成の合憲化
まず,人権制限の各論がすべて削除されたことについては,とりあえず「頭を冷やした」と評価してもいい。但し,「公共の福祉」を人権制約原理として強化し,法の運用・執行面で操作性を高めようとしていることには十分に注意しなければならない。「公益及び公共の秩序」と文言を置き換えても,その内容は曖昧で,権力による恣意的な運用を許してしまう可能性が高い。人権保障の範囲がむやみに縮減されないよう制度を設計する必要がある。関連して,憲法裁判所を設置しない方針は,民主党の考え方と真っ向から対立している。
また,政教分離原則の緩和については,それが信教の自由を保障するための仕組みでもあることを全く理解していないというほかなく,一切許容することができない。
ここでもう一度,「宗教的少数者の人権論」を確認しておこう。
国又は地方公共団体の政治権力,威信及び財政を背景にして,特定の宗教が公的に宗教的活動を行うこと自体が,その特定の宗教に利益を供与し,これを国教的存在に近づけ,他の宗教及び反対する少数者を異端視し,疎外する間接的圧力になるのである。
さらに,国又は地方公共団体のする特定の宗教的活動が大部分の人の宗教的意識に合致し,これに伴う公金の支出が少額であっても,それは許容される筋合のものではない。なぜならば,そのことによって残された少数の人は自己の納付した税金を自己の信じない,又は反対する宗教の維持発展のため使用されることになり,結局自己の信じない,又は反対する宗教のために税金を徴収されると同じ結果をもたらし,宗教的少数者の人権が無視されることになるからである。人権に関することがらを大部分の人の意識に合致するからといった,多数決で処理するような考え方は許されるはずがない。政教分離に対する軽微な侵害が,やがては思想・良心・信仰といった精神的自由に対する重大な侵害になることを怖れなければならない。(津地鎮祭訴訟・名古屋高裁判決より)
尚,自民党は,国や自治体の参加が認められるべき宗教的活動として,「地鎮祭への関与,公金による玉ぐし料支出,公務員等の殉職に伴う葬儀等への公金支出」を例示している。