選挙制度

この9月に日本とドイツで行われた総選挙の結果をみると,やはり選挙制度について考えたくなる。

日本は小選挙区制を基本とする「小選挙区比例代表並立制」(衆議院)で,ドイツは比例代表制を基本とする「小選挙区比例代表併用制」(連邦議会)。名前はよく似ているが全く異なる選挙制度を採っている。

日本の9・11総選挙では,共産党社民党小選挙区制を中心とする選挙制度の見直しを主張した。小選挙区制は,各選挙区で相対1位に選ばれた候補者だけが当選し,2位以下の候補者に投じられた票は全て「死票」となるため,民意を正確に反映できない欠点がある。小泉政権の圧勝に終わった今回の選挙でも,選挙区選挙で野党が得た票数の合計は,与党が得た票数の合計よりも多かった。「民意」は決して小泉政権を熱烈に支持したわけではなかったのに,与党は3分の2を越える議席数を得た。この点を重く見て,「民意の捏造」と評する人もいる。

小選挙区制では,1位にならなければ当選できない。2位では意味がない。多数意見が全体を代表するという意味で「多数代表制」とも呼ばれているこの制度の下では,各選挙区における「多数派工作」を通じて,相対1位を狙わなければならない。しかし,野党側にはこの意欲が最初から欠落していた。与党が統一候補を立てているときに,野党が各党バラバラに候補者を準備していたのでは,勝てるものも勝てない。これは,選挙制度に特別詳しくなくてもわかるはずの簡単な理屈である。

それではなぜ,野党は統一候補の擁立に踏み出さないのか。それは,衆議院選挙制度が,単純小選挙区制ではなく,比例代表制との「並立制」になっていることが大きな理由のひとつだと考えることができる。この制度は,小選挙区制の選挙と比例代表制の選挙を,同時に2つ行うようなものであり,なおかつ重複立候補ができるようになっている。一人の候補者に小選挙区経由と比例代表経由の2つのルートが用意されていて,どちらか一方を通過すれば国会に行けるしくみになっていると言ってもよい。この比例代表制が「並立」していることにより,比例代表議席を得ようとする小政党が,接近・連携よりも差別化・競争に向かいやすい。共産党社民党が与党だけでなく野党の民主党をも厳しく批判しなければならないのは,そういう事情によるところも大きいだろう。従って,野党連携を進めるためには,比例代表部分を思い切って捨て,単純小選挙区制にしたほうがいいことになる。そのとき,公明党共産党社民党のような中小政党を存続させるためには,フランスの選挙制度に倣って,2回投票制(決戦投票制)による絶対多数代表制を導入する方法がある。これなら,単に相対1位になるだけでなく選挙区の過半数(絶対多数)を押さえなければならないので,大政党が小政党に連携を申し入れる傾向が強まる。小政党は連携の条件交渉を通じて独自性を発揮することができ,二大政党制ではなく二大ブロック制へと収斂していく可能性が高い。一方,相対多数代表制のままでは,小政党の存続は難しいだろう。(この項つづく)