選挙制度(2)

民意を議会に正確に反映させることのできる比例代表制については,多党制に結びつきやすく安定した政権が作りにくいとの批判がある。まさにいまドイツで起きていることが,その好例となる。与党連合(社会民主党緑の党)も保守系野党連合(キリスト教民主同盟自由民主党)も過半数を得られず,連立の組み換え(保守系野党連合+緑の党,あるいは,与党連合+自由民主党)にも失敗し,2つの大政党(社会民主党キリスト教民主同盟)が「大連立」するしか道はないように報道されている。しかし,どの政党に投票した人も「大連立」を希望していたとは考えにくく,全く皮肉なことではあるが,民意を正確に反映させることのできる選挙制度で,民意を全く反映していない政権枠組を作ることになりそうだ。

これは,二段階に分けて考える必要がある。まず,選挙で選ぶのはあくまで「議員」であり,「首相」や「内閣」ではない。「議員」を選ぶ段階では,比例代表制により正確に民意が反映されていると考えていいだろう。しかし,その選ばれた「議員」たちが政権担当責任者を選ぶ(首班指名)段階については,もう有権者の手は届かない。これは選挙制度そのものの問題ではなく,間接民主主義という制度のもつ別次元の問題だと考えるべきである。結局,首相公選制のように行政の長を直接選挙で選ぶ制度を導入しない限り,有権者に「首相」を決める権利・権限はなく,それは専ら「議員」の手に委ねられるのだ。

だとすると,有権者と議員の間に,首班指名についてどういう「約束」があったのかが重要となる。どのような連立構想を掲げて選挙を戦ったのか。選挙後の連立工作は,その公約に違反しない範囲で行われなければならない。多党制に結びつきやすい比例代表制を採る国においては,その点を厳しく問うことが制度の適正運用のために必要な条件となる。

緑の党保守系野党連合との連立を拒否したのも,自由民主党が与党連合との連立を拒否したのも,さらに左派新党が「確かな野党」に徹して一切の連立構想を拒否したのも,支持者との関係でみれば当然のことと言える。社会民主党キリスト教民主同盟も,「大連立」に乗り出すのであれば,それは支持者への背任行為に近い。比例代表制によって正確に反映された民意を,そのまま正確に政権枠組に繋げるのが,選ばれた議員たちの責務ではないか。今回の場合は,保守系野党連合による「少数与党」政権(弱い政権)を作るのが,最も「民意」に沿う結果なのではないかと思う。

さて,比例代表制のように民意を正確に反映させることのできる選挙制度を,日本もしっかりと取り入れる必要があるとの議論には,完全に同意できる。しかし,衆議院議員選挙に比例代表制を大幅に取りこんだ場合には,今回のドイツで起きたようなことが起きる可能性があることを十分に考慮しなければならない。また,参議院議員選挙の制度を完全比例代表制にする考え方については,参議院政党政治化を固定化し,個人の立候補を制約してしまう可能性があるので賛成しかねる。参議院は,衆議院以上に「個人中心」の方針で考え,なおかつ,多様な民意が正確に反映された議院として設計されるべきだと思う。その意味では,現行の「大選挙区比例代表並立制」は悪くない。ただ,都道府県別の選挙区を固定的に考えるあまり,「一票の格差」を小さくするための定数是正が適切に行われていない現状がある。これは,憲法にも抵触する問題であり,早急に解消されなければならない。