目的効果基準

 今日は憲法の教科書を開いて,政教分離に関するリーディング・ケース「津地鎮祭訴訟」の最高裁判決を確認しておきたい。
 1965年,三重県津市が体育館の起工式で行なわれた神式の地鎮祭に公費(7663円)を支出した。ある市議会議員を中心にした市民グループは,これを憲法違反だとして市長を相手取り訴えた(損害補填請求)。第一審で津地裁は,この地鎮祭を「宗教的行事というよりは習俗的行事」だと解し請求を棄却。原告は控訴し,第二審の名古屋高裁では,憲法が禁止する「宗教的活動」に該当し公金支出は違法との「逆転勝訴」判決を得た。今度は市長側が上告し,1977年,最高裁判決に至る。

1.制度的保障説
政教分離規定は,いわゆる制度的保障の規定であって,信教の自由そのものを直接保障するものではなく,国家と宗教との分離を制度として保障することにより,間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。
2.限定分離説
国家と宗教との完全な分離は理想にすぎずその実現は実際上不可能であり,政教分離原則を完全に貫こうとすればかえって社会生活の各方面に不合理な事態を生ずることを免れないから,政教分離規定の保障による国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があり,わが憲法における政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないものである。
3.目的効果基準
宗教的活動とは,前述の政教分離原則の意義に照らしてこれをみれば,およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく,そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって,当該行為の目的が宗教的意義をもち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。
4.「一般人」の考慮
宗教的活動に該当するかどうかを検討するにあたっては,当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか,その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則ったものであるかどうかなど,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判断しなければならない。

以上の見地に立って本件起工式を検討すると,それは宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが,その目的は建築着工に際し土地の平安堅固,工事の無事安全を願い,社会の一般的慣習に従った儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ,その効果は神道を援助,助長,促進し又は他の宗教の圧迫,干渉を加えるものとは認められないのであるから,憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが,相当である。

請求棄却。

この判決には,15人の最高裁判事のうち5人が反対意見を付している。