国民投票法案(2)

 「憲法調査推進議連」(http://www1.sphere.ne.jp/KENPOU/)が2001年に作成した「日本国憲法改正国民投票法案」は,だいたい以下のような内容になっている(今度の国会に与党が提出する法案は,この議連案をベースにしているというが,全く同じなのか,あるいはいくらか修正をして出してくるのかは,まだ明らかでない)。

  • 国民投票有権者は「20歳以上」。
  • 投票日は,国会の発議から60日以後・90日以内。
  • 賛成なら○印,反対なら×印を記入。
  • 有効投票総数の過半数の賛成で「承認」とする。
  • 選管関係者,裁判官,検察官,警察官等の「国民投票運動」は禁止。
  • 公務員,教育者の「地位を利用した国民投票運動」は禁止。
  • 外国人の「国民投票運動」は禁止。
  • 外国人・外国法人の「国民投票運動」への寄附は禁止。
  • 新聞・雑誌を買収するなどして有利な記事を掲載させることを禁止。
  • 新聞・雑誌・放送は「表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならない」。

 多くの点で公職選挙法に準じた内容で,特別に偏ったものとは言い難いが,しかしいくつかの問題点がある。
 まず,国民投票法を制定するにあたって,最も重要な論点のひとつは,複数の条文について改正案が発議された場合に,その賛否を条文ごとに問うのか,それとも改正案全体を不可分のものとして「ワンパック」で問うのか,という投票方式の問題である。しかし,この議連案ではその点につき定めがない。私は,各条文ごとに賛否の意思表示ができるよう予め定めておくべきだと考える。例えば「プライバシー権の保障条項を追加することには賛成だが,環境保護義務の規定には賛成できない」という人がいるかもしれない。もしも「ワンパック」でしか投票できないとなれば,この人は棄権してしまうだろう。国家の基本法たる憲法を改正するのだから,できるだけ多くの国民に関わってもらわなければならない。そもそも憲法の改正条項が国民投票を条件にしている意味は,単に改正のハードルを高く設定するだけでなく,憲法制定権力者(国民)の意思を直接反映させることによって,憲法の安定性を保とうとするものである。だとすれば,議員選挙以上に,投票率を高めるための施策が重要だと言える。
 また投票率に絡んで,最低投票総数の規定がないことも気になる。30%ほどの投票率で仮に「過半数」の賛成を得たとしても,国民の大半が賛成したものとは言い難い。一般の法律は国会に制定権があり,国会を通過さえすれば「国民の大半」が納得したものでなくても有効だが,憲法については,国会に制定権を授権していないので,憲法制定権力者(国民)によって承認されなければ無効である。この次元の違いを軽くみてはならない。従って,憲法制定権力者(国民)が積極的に○印を付けないような改正案を,投票制度のカラクリを使って何とか成立させようなどと国会ごとき,ましてや内閣なんぞが考えるのは,全く立場をわきまえない愚行であると言ってよく,また憲法制定権力者(国民)としても,そのような愚行を見逃してはならないのである。
 それから,「国民投票運動」(賛成又は反対の投票をさせる目的をもってする運動)については,投票の公正を確保するため必要最小限の規制を定めざるを得ないことは理解するも,この議連案では,何が禁止され何が容認されるのか,具体的でないことに大きな問題がある。政治運動という最も手厚く保障されるべき国民の権利について何らかの規制をしなければならないときには,それが正当な目的を達成するために必要不可欠でまた他に代替できる手段がないことを明示した上で,慎重かつ厳格に範囲を確定した法律によってなされなければならないことは言うまでもない。この議連案では,あまりに広汎な範囲をしかもあいまいに規制していて,対象となる公務員や報道関係者は,何が許されて何が許されないのかはっきりしないため「萎縮」せざるを得ない。憲法改正という重大局面において国民の権利行使を「萎縮」させるようなことがあっていいはずがなく,この点については抜本的な修正が必要だ。
 尚,マスコミの買収が禁止される一方で,広告・宣伝の自由は確保されるらしい。過熱するCM合戦は最終的に「資金力」勝負になる。果たしてこれは「公正」なのか。まだまだ議論が浅い。