淫行処罰規定

 中学生以下の性交渉を条例で「禁止」するかどうかを検討していた東京都青少年問題協議会が,緊急答申をまとめた(http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2005/01/25/20050125ddlk13010246000c.html)。
 一律禁止は見送ったが,大人と青少年(18歳未満)の性交渉を禁止する,所謂「淫行処罰規定」を青少年健全育成条例に盛り込むよう求めている(「大人の青少年に対する反倫理的な性交については、何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならないことを罰則を付与し、条例で定める」)。
 既に,東京都と長野県を除く全ての道府県条例に「淫行処罰規定」がある。そのうち,福井・静岡・岡山・広島・長崎の5県では,大人だけでなく青少年も処罰の対象となっている。
 これまで東京都は,青少年の自由な意思決定を尊重しようとする立場から,「淫行処罰規定」には否定的だった。しかし今回は,規制に強く反対する論者が協議会の人選から漏れ,議論の流れに変化があった。ついに東京都も,「青少年の自由な意思決定を尊重しようとする立場」から退くことになる。これは,とても残念なことだ。
 答申の中身を読んでみると,「青少年の健全な育成」という観点からみて,社会環境の悪化は「憂慮すべき事態」であるのに,青少年を「保護」する仕組みは不十分だという認識を出発点としている。その上で,これを放置することは許されず,「青少年をめぐる社会的諸問題の解決に向けて」(←これが答申のタイトル),「大人自身の責任」において何らかの改善を試みなければならないと訴えている。
 確かに,性犯罪,性感染症,妊娠・中絶などのリスクが,心身ともに未熟な青少年にとって重大なものであることは否定できない。答申がまず,性教育や情報提供の重要性を掲げているのは当然のことである。
 しかし,青少年の「性」の健全な育成という観点からみて,大人との性交渉を「淫行」と称して処罰の対象とすることが適切かどうかは疑わしい。
 そもそも,性犯罪や性感染症や妊娠・中絶といった,性交渉の「周辺」に問題があるからといって,性交渉そのものを規制しようと考えるのは,いくら「憂慮すべき事態」を前にしているといっても,やはり乱暴な議論だと言わざるを得ない。
 「性」が,個人の「幸福追求」と密接に関わるものである以上,自らの性のありかたを選択する権利は,(仮にその主体が青少年であっても)「公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」ものである(憲法13条)。「乱暴な議論」で簡単に制約できる性質のものではない。
 青少年問題だけでなく,「自由」か「安全」かという二者択一を迫られる場面で,「安全」のために思いきって「自由」を犠牲にしてしまう「乱暴な議論」を耳にすることが近年増えているように思える。このようなときには常に,その「安全」を確保するために,本当にその「自由」の制約は必要不可欠なのか,またその制約は必要最小限に抑えられているか,あるいは他に「より制限的でない手段」はないのか,厳密に考えて,できるだけ「自由」を確保するよう努めなければならない。
 「淫行処罰規定」についても,そもそもの目的が,間違っても青少年の「抑圧」ではなく,青少年の「保護」や「健全な育成」だとするならば,その目的を達成するために,大人との性交渉を全て処罰の対象とするような権利の制約が本当に必要不可欠なのか,またその制約は必要最小限に抑えられているのか,もっと「制限的でない手段」が他にあるのではないか,厳密に考えて,できるだけ「性」の選択肢を確保するよう努めなければならない。そうやって,ひとりひとりのありかたを尊重しようとする態度こそ,性犯罪を非難し,大人と子どもの「不健全」な関係を是正したいと考える大人たちが,率先して選択すべきものなのではないだろうか。