船田試案

 自民党の新憲法起草委員会は,各「小委員会」の会合を続けているが,そのうち「国民の権利・義務」小委員会では,委員長の船田元が,「家族の保護」を国民の「責務」とする等,多くの問題を孕んだ「試案」を提示した。産経新聞によれば,船田試案の主な内容は以下の通り。

現行憲法の国民の権利義務は概ね踏襲する。
そのうえで,「義務」とは別に「責務」の概念を導入。


【責務】
▽国防の責務
▽家庭・家族を保護する責務
生命倫理尊重の責務
▽社会的費用を負担する責務


【追加する権利】
▽知る権利
▽プライバシーを守る権利
▽犯罪被害者の権利
▽環境権
▽外国人の権利
知的財産権


【その他の課題】
▽「公共の福祉」の明確化
▽社会的儀礼の範囲内での政府・自治体の宗教関連行事の容認
▽青少年の健全育成をはかるため有害図書などの表現の自由を制限

 船田元は,「国民が通常持つ権利や自由の一部の制限がないと、国を守りきれない」と述べたらしいが,この発言に端的に表れている通り,「国を守る」ことが目的となっている。国に「国民を守る」義務・責務がある,という論理構造ではなく,国民に「国を守る」義務・責務があるという論理構造。このような議論を黙って見過ごしていいのだろうか。憲法とは,主権者・国民による国家への授権文書ではなかったか。いつのまにか主従が逆転していることに注意しなければならない。