自民党新憲法草案(4)

15条から17条の参政権条項については若干の語句整理のみで,内容的には手をつけていない。一方,18条から23条の自由権条項については,いくつかの重大な変更がある。

第19条(思想及び良心の自由)
思想及び良心の自由は,侵してはならない。

第19条の2(個人情報の保護等)
①何人も,自己に関する情報を不当に取得され,保有され,又は利用されない。
②通信の秘密は,侵してはならない。


第20条(信教の自由)
①信教の自由は,何人に対しても保障する。いかなる宗教団体も,国から特権を受け,又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も,宗教上の行為,祝典,儀式又は行事に参加することを強制されない。
③国及び公共団体は,社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって,宗教的意義を有し,特定の宗教に対する援助,助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。


第21条(表現の自由
①集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,何人に対しても保障する。
②検閲は,してはならない。

第21条の2(国政上の行為に関する説明の責務)
国は,国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。


第22条(居住,移転及び職業選択等の自由等)
①何人も,居住,移転及び職業選択の自由を有する。
②すべて国民は,外国に移住し,又は国籍を離脱する自由を侵されない。


第23条(学問の自由)
学問の自由は,何人に対しても保障する。

まず,19条の2として,いわゆる「プライバシー権」に相当するものを「加憲」している。それに伴って,「通信の秘密」を21条2項から19条の2・第2項に移した。「通信の秘密」が,表現の自由を保障するために欠かせない条件と考えられてきた経緯や意味合いは薄められたが,いずれにしても「通信の秘密は,侵してはならない」ということに変わりはない。変わりがないということは,警察による「盗聴」の違憲性は全く薄まらないということだ。草案19条の2については,警察の捜査手法との関係で,詳細な点検作業を行わなければならないだろう。
また,21条の2として,いわゆる「知る権利」に相当するものを「加憲」している。但し,ここで採用された「責務」という用語には注意を要する。草案前文に「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」という表現があるが,この「責務」について,自民党は,「裁判で強制可能な義務ではなく,幅広く抽象的な訓示規定」だと説明している。もし21条の2で用いられている「責務」も同じ意味だとすると,この条文から導き出される成果は小さくなるかもしれない。国民の,国家に対する「情報開示請求権」というかたちで規定するほうが望ましい。
さらに重要な変更が,20条3項,政教分離原則の「緩和」である。この草案によると,禁止される宗教的活動は,

  1. 社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えているもの
  2. 宗教的意義を有しているもの
  3. 特定の宗教に対する援助・助長・促進,又は圧迫・干渉となるもの

だけに限定される。そうでない宗教的活動については国が関与しても政教分離原則に反しない。しかし,「そうでない宗教的活動」とは,いったいどのようなものだろうか。自民党がこの改憲で,靖国神社参拝を「合憲化」できると考えているのであれば,信仰や宗教というものについて,あまりに無知か鈍感だと言わざるを得ない。神社に(わざわざ)お参りすることは,それが総理大臣であってもなくても,完全に「社会的儀礼又は習俗的行為」の範囲を超えているし,もしそこに英霊に対する云々といった「気持ち」や「精神」や「目的」が存在するのであれば当然に「宗教的意義」があると言えるだろう。従って,そのような行為を「公的」に行うことは,この草案に照らしても「違憲」である。靖国参拝を合憲化するためには,靖国神社を宗教施設でないと断じ,宗教法人格も剥奪して「脱宗教化」するか,あるいは,政教分離原則を全面的に放棄して,国が特定の宗教団体と深く関わって何が悪いと開き直るほかない。
ひとつの逆提案として,総理大臣にも「私的」には「信教の自由」が当然に保障されることを強調し,公務員の「私的」な宗教的活動の権利を憲法に明記する改憲案はいかがだろうか。