『憲法とは何か』

岩波新書が新赤版1000点を機に装丁を少しだけ変えた。そのリニューアル第1弾の中に,長谷部恭男『憲法とは何か』がある。
いま憲法の本といえば,改憲派護憲派の改正論議に参戦するものと思われやすい。もちろんこの本も,立憲主義の意義を再確認する作業を通じて,改正論議に「別の角度」から石を投ずるものではある。しかし,右翼や左翼が自分たちの信念を憲法の条文に反映させようと綱引きしている改正論議には,きわめて冷たく,距離を置いている。だからこの本は,改正論議に熱を上げている人たちが読めば,ものたりなく思えるかもしれない。
まず憲法の「危険性」に注意を喚起する。憲法の「暗黒面」に気をつけろ,と。
次に,立憲主義とは「中途半端な煮え切らない立場」を敢えて選ぶことだという。長谷部恭男には「憲法は生きる意味を教えない」という名言もある。
そして,冷戦の終結立憲主義の勝利をもたらしたはずだったのに,そのことが十分に認識されていないとして,「冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利」に一章を割いている。
この本は,改憲・護憲を論ずる前に,まず憲法について原理的なところから考え始めたいと思っている人に向いている。
また,そもそも憲法についていま議論をすることにあまり意義を感じていない人,どちらかといえば無関心,あるいは「どっちでもいいよ」と思っている人にとっても,“距離の置き方”の知的な実例として,おもしろく読める本ではないかと思う。
5月3日は憲法記念日。今年は,この1冊を推薦する。