昭和天皇発言メモ

A級戦犯の合祀以後,昭和天皇靖国神社を参拝しなくなった。その理由について,ひとつの有力な証拠となる「宮内庁長官メモ」が公表されたことは,主に保守派の靖国論に一定の影響を及ぼし,分祀論者を勢いづかせる可能性がある。
但し,気をつけなければならないことが大きく2つある。
まず,首相をはじめとする政権担当者が,天皇の意思・意向に配慮して,政治的判断を変更することは,原理的にはあってはならない。政府は天皇のほうを向いて政治を行うのではなく,主権者たる国民のほうを向いていなければならないと考えるのが,日本国憲法の原理である。
(ただ,天皇の政治的影響力を完全に排除することは,形式的には可能でも,実質的には難しい。天皇の発言が公にされたとき,その発言内容に沿った世論が形成されて,その世論に配慮して政府が行動することで,結果的に,天皇の発言に沿った政治が行われる可能性は十分にある。そのことを否定する論理も制度も,いまのところない)
もうひとつ,仮に靖国神社A級戦犯分祀に踏み切ったとして,何が解決されるのだろうか。確かに中国からは歓迎されるかもしれない。総理大臣の靖国参拝を「中国に認めてもらうためには」分祀が有効な手段となりそうだ。
しかし,A級戦犯分祀したところで,靖国神社が神社であることには何ら変わりない。ということは,総理大臣の靖国参拝に向けられる違憲の疑いは全く晴れない。憲法問題としての靖国問題は,あくまでも政教分離の問題である。その観点からは,A級戦犯が合祀されているかいないかは些事にすぎず,分祀によって解決されることは何もない。さらに,分祀によって天皇靖国参拝が再開されるようなことがあれば,憲法問題としての靖国問題は一層深刻化する。その意味では,分祀論こそ,警戒すべきである。